
数十秒のぐるぐるに、どう向き合うか
回っていたのは、数えてみれば30秒ほど。寝返りを打った直後や布団から起き上がる瞬間に周囲がぐるっと回り、しばらくすると落ち着く。そんな朝が数日続くと、出勤前の運転やご家族の介助が気になる方も多いと思います。
こうした短いめまいは、耳の奥にある耳石が関わる良性発作性頭位めまい症(BPPV)で起こることがあります。この記事では、その仕組みと救急要請を考える症状、受診時に伝えたいこと、自宅で頭を動かす方法を試す前の注意点を順に整理します。
この記事の要点まとめ
- 寝返りや起床時に短く回るめまいは、耳石が関わるBPPVのことがありますが、診察で確認します。
- 激しい頭痛、手足のまひ、ろれつの異常、歩行困難などを伴う場合は、救急要請を検討します。
- 頭位検査で原因を確かめ、治療法を相談します。自宅で頭を動かす方法の前に医師へ相談し、転倒や運転に備えます。
目次
寝返りでめまいが起こる原因として、耳石の動きが考えられます
寝返りや起床時の短い回転性めまいでは、良性発作性頭位めまい症(BPPV)が考えられる原因の一つです1。ただし、症状だけで病名を決めることはできず、診察での確認が前提になります。
横向きになると回るのは、頭の向きと三半規管が関係するため
内耳(耳の奥)には、体の傾きを感じる部分と、頭の回転を感じる三半規管があります。傾きを感じる部分にある小さな粒(耳石)がはがれて三半規管に入り込むと、頭の向きが変わるたびに粒が動き、中のリンパ液が流れます。
脳は「頭が回っている」と受け取りますが、実際の体は止まったまま。このずれが、ぐるぐる回る感覚につながると考えられています1。横向きになる、枕から頭を上げるといった特定の頭の動きで起こりやすいのはこのためです。
数十秒ほどで治まる回転性めまいと、吐き気の有無
BPPVのめまいは、頭の位置を急に変えたときに生じる短いめまいの発作が特徴とされています1。強い回転感に吐き気を伴うこともありますが、じっとしていれば収まっていく経過が典型です。
いったん治まっても、同じ向きに頭を動かすとまた起こることがあります。持続時間が短いからといってBPPVと言い切れるわけではないため、時間は判断材料の一つとして記録しておきましょう。
「耳が聞こえない」・耳鳴りがあるときは医師に伝える
典型的なBPPVでは、難聴や耳鳴りは伴わないことが多いと考えられます2。めまいと同じころから片耳が聞こえにくい、こもる、耳鳴りが続くといった変化があれば、耳石以外の病気を考える手がかりになります。
特に急に聞こえが落ちたと感じる場合は、時間がたつほど対応が難しくなる病気もあるため、様子を見ずに早めに耳鼻いんこう科を受診してください。小さな変化でも、診察時に伝えていただくと判断の助けになります。
起き上がった瞬間のふらつきは、寝返りのめまいと同じ?
似ていても、別の原因のことがあります。横になったまま頭を動かしただけで景色が回るなら、頭の位置の変化が関わるBPPVの特徴に近いといえます1。
一方、立ち上がったときに目の前が暗くなる、ふわっと気が遠くなるのは立ちくらみで、血圧の変動などが関係することもあります。「寝たまま回るのか」「立ったときにふらつくのか」を分けてメモしておくと、医師が原因を絞り込みやすくなります。
ポイント
寝返りで回るめまいは耳石の動きが関わることがありますが、聞こえの変化や立ちくらみとの区別は診察で確かめます。
短いめまいでも見逃したくない症状と、診察で確かめること

めまいが短くても、頭痛や手足の異常を伴う場合は脳の病気を考え、耳鼻いんこう科の予約より先に救急を検討します。耳の病気が考えられる場合には、診察で頭の向きや目の動きを詳しく確かめます。
激しい頭痛・まひ・ろれつの異常があれば救急要請を考える
次のような症状がめまいと一緒に現れたら、自分で運転して受診せず、救急要請(119番)を考えてください。
- これまでにない激しい頭痛
- 片側の手足のまひやしびれ、力が入らない
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
- 物が二重に見える、視野が欠ける
- 支えがないと立てない・歩けない
BPPVは頭を動かしたときに限って短く起こるのが典型で1、こうした症状は通常伴いません。「短いから様子を見る」ではなく、一緒に出ている症状で判断すると覚えておいてください。
長く続くめまい・聞こえの変化から考える別の病気
めまいの続く時間、頭の動きとの関係、聞こえの変化は、別の病気を考える手がかりになります。
| 病気の例 | めまいの続き方 | 頭の動きとの関係 | 聞こえ・耳鳴り |
|---|---|---|---|
| BPPV | 1分未満が多い | 頭を動かすと起こる | 伴わないことが多い |
| メニエール病 | 数十分〜数時間 | 関係なく起こる | 難聴・耳鳴り・耳のつまり感を伴いやすい |
| 前庭神経炎 | 強いめまいが数日続くことがある | 動くと強まりやすい | 伴わないことが多い |
| 脳の病気(中枢性めまい) | さまざま | さまざま | 頭痛・まひなどを伴うことがある |
表は受診時に伝える内容を整理するための目安で、BPPVの特徴1を含め、実際には典型から外れる経過も少なくありません。当てはまる行があっても、症状だけで病名は決められないと考えてください。
診察では頭の向きを変え、目の動きも確認する
耳鼻いんこう科では、まず問診でめまいの起こり方や持続時間、聞こえの変化を伺います。そのうえで、横になった状態で頭の向きを変える頭位変換検査を行い、めまいが誘発されるか、眼振(目が勝手に揺れる動き)がどの方向に出るかを観察します。
眼振の向きやタイミングから、どちらの耳のどの三半規管が関わっているかを推定していきます。必要に応じて聴力検査なども行い、脳の病気など別の原因が疑われる場合は、適した医療機関へのご紹介を検討します。
めまいを相談する前に記録したいこと
短時間でも繰り返すなら、記録を持って耳鼻いんこう科へご相談ください。次の項目をスマートフォンのメモに残しておくと、診察で伝えやすくなります。
- 右向き・左向き、起き上がりなど、起きたときの頭の動き
- 回っていた時間(秒・分)
- 1日・1週間で繰り返した回数
- 難聴・耳鳴り・頭痛の有無
- 吐き気や、ふらつきが残るか
ご家族の支度で慌ただしい朝は、後から思い出して書くのが難しいものです。症状が出たら、時刻と続いた時間だけでもその場で残しておきましょう。
耳石によるめまいの治療と、受診までの過ごし方
耳石によるめまいでは、頭を決まった順序で動かして耳石を元の場所へ戻す頭位治療が中心になります。どの方法を選ぶかは診察結果しだいのため、受診までは転倒を防ぐ過ごし方を優先してください。
頭を動かす治療は、症状が出る側や三半規管を確認して選ぶ
代表的な方法の一つがエプリー法で、後半規管(後ろ側の三半規管)に耳石が入ったタイプを対象に、複数の研究で検討されています1。同じタイプについて、セモン法を改良した方法とエプリー法を比べた研究もあります3。
ただし、耳石が入った三半規管や左右によって、頭を動かす向きと順番は変わります。外側の三半規管が関わるタイプでは別の方法を用いるため、動画で見た手順がご自身の症状に合うとは限りません。頭位治療の後に一時的なふらつきが残ることもあり、医師の説明を受けながら進めていきます。
自宅で頭を動かす体操を試す前に確認したいこと
自宅で行う頭位治療を調べた研究はありますが、対象はすでにBPPVと診断され、治療を受けた後に再発した方でした4。首や背骨に問題がある方は、研究の対象から外されています4。
つまり、初めてのめまいを自分で判断して体操を始める根拠にはなりません。初めてのめまい、長く続くなど典型と違う経過、首や腰の持病、体を支えにくいほどのふらつき。いずれかに当てはまる場合は、試す前に医師へご相談ください。
朝の転倒を防ぎ、めまいが残る間は運転を控える
起床時はいきなり立ち上がらず、一度座って、回る感覚がないか確かめてから立ちましょう。頭を動かした直後に起こりやすい特徴があるため1、寝返りや起き上がりをゆっくり行うだけでも備えになります。
めまいが起こりうる間は、車の運転は控えてください。通勤はご家族の送迎や公共交通機関に切り替える、ご家族の介助は一時的に他のご家族へお願いするなど、ご自身が支える側にならない段取りを考えておくと備えになります。
繰り返す・悪化する場合の再診と予約の目安
数日たっても続く、めまいの出方が変わった、落ち着いた後に再発した。こうした場合は診断の見直しも含めて、改めてご相談ください。BPPVは再発を繰り返しやすい病気と報告されています4。再発したときの対応を医師と話し合っておくと見通しが立てやすくなります。
めまいで初めて受診する方や久しぶりに受診する方は、受診先の予約方法を確かめておくとよいでしょう。受診時には症状の出方や持病を伝え、必要な検査について説明を受けてください。ふらつきが残る場合は、移動中の転倒にも気をつけ、ご家族の送迎や公共交通機関の利用を検討してください。検査などの費用は内容や医療機関によって異なり、当院の費用も診察内容によって変わります。
ポイント
動画の手順を試す前に、診察で耳石が入った側と三半規管を確かめておくと、その後の判断がしやすくなります。
よくある質問
Q1. めまいがするのは、何かが不足しているからですか?
A. 特定の栄養が足りないことだけで、寝返りのめまいを説明することはできません。貧血や水分不足が立ちくらみに関わることはありますが、横になったまま頭を動かして回る場合は、耳石の動きなど耳の働きが関わっていることがあります1。原因は診察で確かめましょう。
Q2. 寝返りを打って横向きになると、めまいがするのはなぜですか?
A. はがれた耳石が三半規管に入り込むと、頭の向きを変えたときに粒が動き、実際には回っていないのに回る感覚が生じると考えられています1。左右どちらを向くと起きるかは、診察で関わっている耳を推定する手がかりになります。
Q3. 内耳性めまいの原因はストレスですか?
A. 睡眠不足や疲れ、ストレスがめまいに関わると指摘されることはありますが、ストレスだけを原因と決めることはできません。耳石によるもの、内耳の別の病気、脳に関わる病気など、考えられる原因は複数あるため、まずは診察で確認することをおすすめします。
Q4. 回転性めまいにならないためには、どうしたらいいですか?
A. 必ず防げる方法は分かっていません。BPPVは再発することがあると報告されており4、すでに診断を受けた方は、再発したときにどう対応するかを医師と相談しておくと落ち着いて動けます。起床時にゆっくり体を起こすなど、転倒に備えた習慣も役立ちます。
Q5. 添田耳鼻咽喉科医院でめまいを相談するには、どう予約すればよいですか?
A. 予約方法は医療機関によって異なります。めまいで初めて受診する方や久しぶりに受診する方は、受診先の案内で予約方法を確かめてください。激しい頭痛や手足のまひなどを伴う場合は、予約を待たずに救急要請を考えてください。
参考文献
1. Hilton MP, Pinder DK. The Epley (canalith repositioning) manoeuvre for benign paroxysmal positional vertigo. Cochrane Database Syst Rev. 2014. PMID: 25485940 / DOI: 10.1002/14651858.CD003162.pub3
2. めまい・顔面神経麻痺|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=24
3. Strupp M, Mandala M, Vinck AS, et al. The Semont-Plus Maneuver or the Epley Maneuver in Posterior Canal Benign Paroxysmal Positional Vertigo: A Randomized Clinical Study. JAMA Neurol. 2023. PMID: 37358870 / DOI: 10.1001/jamaneurol.2023.1408
4. Kim HJ, Kim JS, Choi KD, et al. Effect of Self-treatment of Recurrent Benign Paroxysmal Positional Vertigo: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2023. PMID: 36648931 / DOI: 10.1001/jamaneurol.2022.4944
昭和60年 栃木県立宇都宮高等学校 卒業
昭和60年 東京慈恵会医科大学 入学
平成3年 東京慈恵会医科大学 卒業
平成3年 第85回 医師国家試験 合格
平成3年 東京慈恵会医科大学付属病院研修医
平成5年 同上 研修終了
平成5年 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 助手 診療医員
以後 慈恵医大附属病院(本院、第三病院、柏病院) 太田総合病院(川崎市)に勤務
平成12年~平成14年 Brandeis University Ashton Graybiel Spatial Orientation Laboratory
(ブランダイス大学Ashito Graybiel 研究室 (米国 マサチューセッツ州)へ研究留学
平成14年 留学終了帰国
以後 慈恵医大附属病院(本院, 青戸病院(現 葛飾医療センター), 柏病院)に勤務
平成15年 学位(医学博士)受領
平成16年 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 講師
平成20年 東京慈恵会医科大学 退職
平成20年 獨協医科大学 非常勤講師
平成20年 添田耳鼻咽喉科医院 副院長
平成24年 添田耳鼻咽喉科医院 院長
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定補聴器相談医
日本めまい平衡医学会認定めまい相談医
